山河ノスタルジア

私はジャ・ジャンクー映画が嫌いだった。
『一瞬の夢』には感動したが、その後の日本の某製作会社が
出資するようになり、ヨーロッパでもてはやされるようになって
からの作品がダメだった。
どうにも嘘っぽいとしか思えないのだ。

そう思うのはどうやら私だけではないらしく
『三峡好人』の、労働者たちのうどん?の食べ方や
看護婦である趙涛の歩き方がダンサー歩きだとか
些細なところまでが(でも重要)嘘くさいという声を
中国人監督からも日本人からも聞いた。

このブログでも以前書いたことがあるが、
四川のディベロッパーの資金で撮った立ち位置不明なセミ・ドキュメンタリー
『四川のうた』も怪しいと思ったが、
上海万博のドキュメンタリーに至ってはウイグル独立運動指導者に反発して
メルボルン映画祭をボイコットした見返りに撮らせてもらったものだった。
これはジャ・ジャンクーに言われて一緒に同映画祭をボイコットした趙亮が
アイ・ウェイウェイをインタヴューしようとして
逆にアイ・ウェイウエイに厳しく追及されて、しどろもどろになっている映像を
見て知った。ついに化けの皮がはがれたな、と思った。
広東の女性デザイナーのドキュメンタリーもあったが
あのデザイナーはファースト・レディーのお抱えデザイナーである。

日本では異様に評価の高かった『罪の手ざわり』に至っては
中国で実際に起きた事件をそのままなぞっただけで、
なんでこれがカンヌの脚本賞かと不思議でならなかった。
ちょっと面白かったのは東莞の風俗産業の描写ぐらい。

が、しかし、今回の『山河ノスタルジア』は感動とまではいかないものの、
心に染み入るものがあり
『一瞬の夢』以来、久しぶりに最後まで反発せずに作品世界に
見入ることができた。
この作品は90年代後半から現在、そして未来までの中国人の精神構造を
かなり的確に浮き彫りにしている。
富む者はますます富み、時代に取り残された者はますます貧しくなっていく、
その象徴のような二人の男の間で結局は価値観の全く違う成金男を選んで
しまう趙涛演じる地方の田舎町の女性は相当数の中国の女性の姿を代表
していると思う。

だから彼女が孤独な中高年期を迎えるのは、ある意味自業自得では
あるのだけれど、最後にふっきれたように若い時に流行ったディスコ曲
「Go West」を独り踊るラストシーンには、
『一瞬の夢』で出稼ぎ売春少女が「我的天空」を歌ったシーンに通じる
静謐な感動があったと思う。
それにしても、ジャ・ジャンクーは映画の中でその時代を表現する流行歌
を上手く使う点ではピーター・チャンと双璧の監督だと思う。

オーストラリアに移民して、金はあるがちっとも幸福でない張訳と、
英語のできない父親と意思の疎通にも通訳が必要な董子健演じる父子にも
かなりの数の経済移民中国人の空疎な心を抱えた現実が浮き彫りにされて
いる。まあ、でも、そういう中国人たちの多くはこの映画を観ないことだろう。

趙涛演じる母と息子の関係については他のところに書いたのでここでは触れないが、
母と息子は中国映画の永遠のテーマであると改めて思った。









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この記事へのコメント

内匠
2016年03月04日 12:28
「罪の手ざわり」がなぜあれほど賞賛されたのか、本当によくわかりません。観た後連れ合いと一緒に、この程度の問題意識の提示、思わせぶりな抉り方、だからなんなの、と貶しまくったのを記憶してます。ジョニー・トーを参照してみせたりしてますけど、あれくらい凄く、面白く撮れたらいいのにね!と嫌味に思っていました。あまりにべた褒めされているから、訳も分からず、妙な反発をしたのも確かですが。とはいえ新作はまた別物なので、こだわらずに観てみます。
マダム・チャン
2016年03月05日 08:25
内匠さん
ですよね。最低の映画だと評する人を何人か
知っていますが、マスコミはもちろんそんな
ことは言いません。キネ旬が確か外国映画第
一位か何かに選んだ時は、まあ、過去に「無
言歌」を選んだ人たちだからな、ともう何も
言う気も起りませんでした。
今回の新作は監督自身も小さな映画、と言って
いるそうですが、小さな映画のほうがいい物に
なる点は張芸謀と似ていますね。

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