『風水』東京国際映画祭辞退の顛末

東京国際映画祭開幕2日前の18日、新華社がコンペティション
部門の中国映画『風水』が映画祭を辞退すると報じ、NHKも朝の
ニュースで報道しました。
すでに何作かの中国と香港映画がナインラップからの取り下げ
を申し出ていたものの、こんな土壇場になっての辞退には
さすがに開いた口がふさがりませんでした。
その日はマスコミや司会者通訳者向けの試写も行われたばかり
だったのに。

その突然のニュース報道に驚いていた時、
同作品の芸術顧問であり、製作側のメンバーの1人でもある
『チベットの女』や『モンゴリアンテール』で日本でもおなじみ
の謝飛監督が、
「この辞退宣言は配給会社社長の独断であり、自分たちは同意
していない、
監督や俳優の来日はさせないとは決めていたが、
作品を直前に引き上げることは映画を楽しみにしてチケットを
買ってくれた日本の中国映画ファンに対しても大変に失礼なこ
とである」
との主旨の反対声明を発表しました。

謝飛の声明に対して、突然の辞退は映画の宣伝のための話題
づくりが狙い、
尖閣問題が理由なら、なぜもっと早い9月の時点で辞退しなかっ
たのだ、という謝飛を支持する声が、一昨年の東京国際で『観音
山』が入賞したプロデューサー方励などから寄せられ、
ツィッターでも賛同の声が多く、中国の映画人の健全さを感じさせ
てくれました。

実際、他の作品は9月20日にラインナップが発表になる前に辞
退しています。(香港の厳浩監督の作品は発表後でしたが)
なので、字幕の制作やチケット販売にさほど影響はなく、
迷惑も最小限にとどめられたのでした。
(もちろん、せっかく選んだ映画祭側にしてみれば大変に残念な
ことですし、私も楽しみにしていた字幕担当作品がキャンセルに
なってがっかりしました)

ただ、『風水』は監督と主演女優と俳優の来日取りやめの通知
もぎりぎりで、(謝飛は早くから決めていたと言っているのに)
急きょ監督たちの代わりに台湾人のカメラマンが来日してくれる
ことになりました。(映画の彼の映像は見事です)
ところが、その劉又年カメラマンを迎えての22日の記者会見と
QAも土壇場でキャンセルになってしまったのです。
劉氏のおわびメッセージには
「作品を代表して自分が何かを言うことができないから」とありました。
この苦しい言葉に、おそらく彼の急な来日を知った中国側から
ストップがかかったことが推測できます。

劉カメラマンには本当に同情を禁じえません。
中国と台湾と離れているため、製作会社や配給会社との意思の
疎通が十分でなかったか、
中国と台湾の尖閣問題に対する温度差が微妙に違うため、
それほど大事になっているとは気づかなかったのか、
たぶん、その両方でしょう。

そして、『風水』の王競監督は北京電影学院の准教授だそうです。
おそらく謝飛監督の教え子ですね。
製作には北京青年映画製作所(まだ、あったんだと驚きましたが)
も名を連ねています。
そういう立場であれば、こうした状況で来日するのは監督にとって
は、とても難しいことだったでしょう。
本心は来たかったのに違いありませんが。
素晴らしい作品であるだけに、その無念さがしのばれます。
主演女優の顔丙燕もこれまでの彼女の出演作で一番の名演技と
中国で評価されています。今回も主演女優賞の可能性も充分にあ
ります。ぜひ、本人に受賞させてあげたかった。

東京国際映画祭事務局が直前の辞退を契約違反として受け入れず、
上映に踏みきったのは英断だったと思います。
『風水』のスタッフ・キャストも実は陰でよくやってくれたと感謝している
のでは?
共産党の中国において、映画はまだまだ国の管理下にあり、体制内
で撮っている映画人にはさまざまな制約があります。
日本人にはなかなか理解しにくいことですが、
そのことを踏まえて今回のことも理解してあげて欲しいと思います。

そうは言っても、私もその配給会社の女社長には腹が立ちました。
映画のためでなく金儲けを第一にしか考えられない輩が今の
中国商業映画界にいるのもまた事実。
政治を金儲けに利用するのは、最低の行為だと思います。
こういう人間には映画に関わる仕事をして欲しくないですね。

さて、今日は台湾映画『パンのココロ』の取材通訳に行きます。
映画が大好きでたまらない若い監督の映画。
こちらも気持ちよく通訳ができます。


この記事へのコメント

クローバー
2012年11月11日 09:54
こんにちは、私は映画はなかなか見れる機会がないのですが、最近 BSの宮廷女官若曦 (歩歩驚心)というドラマにはまってみています。
服や髪飾りや小物がきれいです。
マダム・チャン
2012年11月11日 12:38
『歩歩驚心』日本でやってるんですね。
清朝へのタイムスリップものですよね。
原作もなかなか面白いと聞きました。

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