マダム・チャンの日記

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zoom RSS 金陵十三釵

<<   作成日時 : 2012/01/07 09:33   >>

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非常に良く出来た娯楽作品である。
何しろ張芸謀監督だから技術的クオリティーに瑕疵はない。
俳優たちの演技もすばらしい。
クリスチャン・ベールや、佟大為(『レッドクリフ』の曹操軍の蹴鞠のうまい
兵士役)といったプロの俳優はもちろんのこと、
映画出演はまったく初めてという娼婦や女学生役、修道院に拾われた孤
児の修道士役の演技も本当に見事で、こういう素人の演出にかけては、
中国でも張芸謀の右に出る監督はいないだろうと感心。
意外に出番の少なかった渡部篤郎さんだったが、英語の台詞をがんばっ
ていたし、教養あるインテリ将校の人道主義精神とその限界を精一杯演じ
ていたと思う。畜生のような日本兵を演じた日本の俳優さんたちにも敬意
を表したい。

だが、感動はしないのである。
戦慄はする。でも、それは映画の力ではなく、1937年12月から数ヶ月間、
確かに南京で似たようなことを日本がしたのだという事実に対するもの
で、映画そのものに心を揺さぶられることは私の場合、なかった。
なぜか。脚本と演出が駄目だからだ。

いくつか私が疑問を感じた点を挙げる。
日本軍が攻めてくると分かっていた12月13日、教会に寄宿する女子学生
たちは、ここに至ってバスケットを持って、外で何をしていたのか。
ハイキングでもしていたのか。
彼女たちが日本兵に追われて逃げまどっていなければ、
佟大為演じる李教官たち国民党の十数名の残党兵たちは黄海波
演じる兵士が言うように、あと少しで南京城を脱出することができたのに、
女学生を日本兵から守るために発砲して、李教官と少年兵1人を除いて
玉砕するのだ。
その死に方も日本の神風特攻隊のお株を奪ってしまうほどの肉弾戦術で
ある。
史実は、国民党の残党兵たちは軍服を脱ぎ捨てて、一般人の服を奪い、
一般人に紛れこんだという。
そして、そのことが日本軍が捕虜摘発の際に一般民衆を巻き添えにして
殺戮するという大惨事を引き起こした。
例外もあっただろうけれど、その史実とは正反対のあまりに英雄的な兵士
の描き方は「プロパガンダ映画」のそしりは免れないと思う。
そして、そうした兵士のヒロイックな戦死を演出するためには、女学生たちは
無謀にも日本軍の入城当日に南京の町を集団でうろついていなければなら
なかったのである。
この点が原作とは大きく違っている。

一方、同じ日に制止する修道士を無視して教会の地下室に逃げこんだ
秦淮河の娼婦たちのうちの2人は、こっそりと働いていた遊郭に戻り、
日本兵に見つかって、輪姦の末に惨殺される。
ここが映画で一番残忍な場面でもある。
なぜ、戻ったのか。
琵琶の弦とヒスイのイヤリングを取りに戻ったのである。
バッカじゃないの?
確かに原作でも一番年若い娼婦の1人が琵琶の弦を取りに戻る設定は
あった。
だが、それは教会に逃げこんできた負傷した国民党兵士と恋仲になり、
どうしても、その兵士が死ぬ前に琵琶を弾いて聴かせてあげたいという
思いからで、映画でも一応そういう設定にはなっているのだが、
相手は瀕死の少年兵で、交流と言うほどのものもなく、
娼婦が自分の命を懸けてまで弦を取りに戻るという説得力に乏しい。
(弟に似ているとは言うものの)
まして、原作にもない、もう1人の娼婦がイヤリングを取りに戻るとは!
いずれも日本兵に見つかって強姦された挙句に殺されるための無理やり
な設定という印象がぬぐえない。

娼婦の1人であるヒロインの玉墨が女学生たちを身を挺してまで助けたい
と思う理由が、自分が13才で義父にレイプされたからであり、
クリスチャン・ベール演じる、神父に化けたアメリカ人の死化粧師が
実の娘を女子学生たちと同じ年頃で亡くしているから、だと
当人たちが台詞で語り合うのも、いかにも説明的でしらける。
それでも、最初は金目当てで教会に居座ったアメリカ人死化粧師が
日本兵に襲われそうになる女生徒たちを目の当たりにして、
英雄精神に火がつくという設定は、ただの信仰深い老神父だった
原作よりもずっと面白いと思う。
だが、報道記事によれば、それは監督や脚本家のアイデアではなく、
クリスチャン・ベールの提案だったという。なるほどね。
そうでないと演技のし甲斐がなさすぎたんだろう。
だったら、ヒロインとの不必要なベッドシーンも、きっぱりと断ってもらい
たかった。
ただの話題作りとしか思えない余分なシーンで、
実際もともとの脚本にもなかったのに、
プロデューサーの強い意向で監督がまず説得され、
クリスチャン・ベールも仕方なく応じたらしい。(1億元ももらってるし)


曹可凡演じる日本軍の通訳で女子学生の1人の父親役の造型は良い。
『南京! 南京!』で范偉が演じた役にも似ていて、家族を助けるために
やむなく日本軍のために働くという漢奸の描き方は、
かつての抗日映画に描かれた根っからの悪人の漢奸とは違って、
説得力があるし、実際、当時も日本のために働いて、後に処刑された
人の多くは、こういうケースが多かったのだろうなあと思われ、
彼らもまた被害者だったのだとつくづく思う。


中国の映画評を見ると、女学生を守るために娼婦たちが自ら女学生に
化けて、日本兵の餌食になりに行く点に、主に女性たちから戸惑いと疑
問の声が多く寄せられている。
女学生の貞操は大事で、娼婦の貞操は大事ではないのか、と。
『南京! 南京!』でも娼婦たちが一般女性たちを守るために日本軍の
慰安婦供出命令に名乗りを上げるシーンが描かれていた。
男性監督の、処女や良家の婦女の貞操は尊いが、性経験の豊富な
商売女の貞操は、という真意が確実にうかがえるので、
そこに反発を感じるのだろう。当然である。
映画の中でも、クリスチャン・ベールが「この選択は正しいのか。
人は平等ではないのか」と迷い、少年修道士に「他に選択はない」と
言い返されている。
このあたりもベールが台詞に入れることを要求したのに違いない。
原作では教会に逃げこんだ国民党の残党兵が女学生を守るため、
身を挺して日本兵に残酷に殺される姿を目にしたことにで、
娼婦たちも義侠心に燃えるという設定になっていた。
さすがに女性作家らしい処理だと思う。
実際にどれだけのプロの女性が一般女性を身を挺して守るという事実が
あったのかは知らないが、2万人以上の婦女が老婆も少女も構わず強姦
されたというから、そういう女性たちの存在はあったにしても、焼け石に水
であったろう。


原作ではヒロインの玉墨は、聖夜に賛美歌を聴きたいという日本軍将校の
申し出を知ると、その裏の意図にすぐに気づき、小刀を胸に忍ばせて、
女学生に化けて出かけていく。
案の定、輪姦されて、抵抗した娼婦は殺されるが、玉墨は殺されることなく
慰安婦にさせられる。
戦後、解放された玉墨はそうした過去を隠すため整形をして生き延びて、
文革後に女学生の1人の書娟と再会し、
「玉墨さんでは?」と聞かれても、「人違いでしょう」と受け流して姿を消す。
映画では彼女たちの英雄的行為がたたえられるが、
実際の彼女たちは新中国になってから、もっと長い苦しい日々を生きて
いかなければならなかったに違いない。
そうした事実に触れられることは、当然ながら、映画ではまったくなく、
女学生に化けた娼婦たちが日本軍のトラックに乗せられて連れ去られる
までしか描かれることはない。

これで私が感動しなかったのがなぜか、分かってもらえるかもれない。
南京事件の残忍さをそれなりに描いてはいるものの、
中国人の英雄的行為を描くことに重点が置かれすぎ、
娼婦たちの媚態や美しさが過剰に強調されるので、
事実の重みが薄れてしまっているのが、この映画の最大の欠点であり、
だとしたら、なぜ「南京事件」を背景にするのか、という根本の姿勢に
疑問を感じてしまうからだ。
「南京事件」という日本にとっても中国にとっても重い歴史の事実は
商業映画にするにはふさわしくなく、
優秀なドキュメンタリーが作られるべきなのではとも思う。

それでも、中国ドイツの合作でドイツ人監督による『ラーべの日記』は
興行的には成功しなかったが、史実に忠実に描いている点で、
やはり観る者の心を打つものがあり、
私は『南京! 南京!』や『金陵十三釵』よりも映画として評価したい。
何と言っても、朝香宮鳩彦の存在を描いている点が偉い。
この昭和天皇のイトコだかハトコである宮様が南京侵攻軍の副将であった
ために、南京入城式をとどこおりなく安全に執り行おうとした南京侵攻軍は、
一般市民の中に逃げこんだ国民党兵士を徹底的に捜索し、
疑わしい兵役年齢の一般男子はすべて粛清しなければならなかった。
ちなみに朝香宮は戦犯としての罪にも問われることもなく、長寿をまっとうし、
戦後の70年代まで生き続けた。
(『ラーべの日記』では香川照之さんがこの朝香宮を鬼気迫る演技で熱演
いる)





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コメント(12件)

内 容 ニックネーム/日時
はじめまして。
まだ、私はこの映画を見ていませんが、『南京!南京!』は見ました。
中国の有名な歌手の韓紅がこの映画を見て、 「日本人は永遠の敵」、「日本製品は使わない」と言ったそうです。
過剰な反応だと思いますが、非常に残念です。彼女の歌は好きなので。。。
まあ、来月には見れると思うので、もうしばらく待って、冷静に見てみたいです。
manchan
2012/01/08 23:16
私もこの映画のコメント(紹介文)を自分のブログに書きましたが、中国人の方と思われるコメントをいくつか頂きました(上手な日本語で)
日中の歴史観の相違を見事に感じました。

また、私は昨年、公開と同時に見に行きましたが、
おそらく単位で配られれたチケット交換券を持って鑑賞に訪れるお年寄りが目につきました。
会員は35元ですが、このチケットだと10元。
建党偉業の時もそうでしたが、この映画もこの作戦で
興行成績6億元ゲットするまで公開が続けられるのではないでしょうか。
推測ですがコスト6億元のうち、党(政府)はどのくらい負担してるんでしょうか。

活着を作った監督がこのような映画を作るのにはとても幻滅しました。
ふろむチンタオ
2012/01/09 07:34
manchanさん
まあ、この映画を観れば、中国人は大抵は韓紅と
同じような感想を持つでしょうね。
ただ、今回、南京大屠殺記念館で私たちは日本語
で喋っていたんですが、誰も私たちをジロジロ見
たりしなかったんですよ。20年前は結構奇異な目
で見られたし、「自分たちで来たんだろうか」と
コソコソ話しているのが聞こえたりしたんですけ
どね。中国人も少しずつ変わってきている感じは
しましたよ。
マダム・チャン
2012/01/09 21:30
制作費はプロデューサーの張偉平がマンションを
抵当に入れて(たぶん監督の数あるマンションも)
用意したそうですよ。政府が出資はないと思います。

日中の歴史観の相違というのは?
日本でも南京事件についての認識はいろいろですよ
ね。私は南京事件はあったと思いますし、国際法に
違反した非常に大きな規模の捕虜と一般市民の殺戮
が行われたと認識しています。
でも、それと映画の評価とはまったく別の話です。
マダム・チャン
2012/01/09 21:34
なるほど。そうなんですか。
中国にいながらそういった情報を取れないのは努力不足でしょうか。
さすが「プロ」ですね。と素直に脱帽です。

「日中の歴史観の相違」と言うのは、
南京大虐殺という表現が適切なのか。という、これは規模やその内容を指します。
中国と日本(私が日本で得た知識)ではかなり異なります。
なので私は「南京事件」についてはきちんと検証するべきだと思っています。

この点はまさにマダムチャンさんがご指摘されている、
>国際法に違反した非常に大きな規模の捕虜と一般市民の殺戮

という部分になると思いますが、
中国で言い伝えられている状況の通りなのか?という部分には疑問を持っております。
ただ、日本が中国へ侵略したことは歴史的事実ですし
南京へ侵攻したのも歴史的事実です。
同じことでも加害者と被害者の感じ方も違うと思います。この部分は否定致しません。

最後に映画の評価と全く別の話・・については
私はそうは思いません。

扱った題材そのものを背負うのが、それを表現した(製作した)人々の責任でもあるし、見るほうもその覚悟が必要だと思います。

そう考えると、ここ数年のジャン・イーモー監督に対して感じられていたリスペクトがいまは全くなくなっていることに納得する自分です。
ちなみに彼の作品でとても好きなのは、「活着」と「有活好好説」です。
どうも失礼致しました。
ふろむチンタオ
2012/01/09 22:44
南京事件そのものと映画の評価は別と
言ったのは私は南京大虐殺はあったと
思うけれども(30万人という中国が主張
する犠牲者の人数についてはまだ全て
検証はされていないとは言え)、
南京事件を題材にした映画だから評価
するということにはなりえないという
意味です。
マダム・チャン
2012/01/10 13:48
こんにちは、マダム。
今日、乐视网で『金陵十三钗』を見ました。
確かに、マダムの言う通りだと感じました。何か中途半端で、物足りない感じです。
一方、今週15日、文教大学湘南キャンパスで、『南京!南京!』が上映され、陸監督と学生の交流会も行われたそうですね。
このようなポジティブな交流と真逆の、名古屋市長の非常に残念な発言は、日本人として恥ずかしいと思いました。
manchan
2012/03/17 20:48
『南京!南京!』の日本での上映会活動って
背後に中国政府が動いていそうですね。
孔子学院と同じような匂いを感じます。

ブログにも書きましたが映画としてはイ
マイチなので、公開されなくても仕方な
い気がします。私は陸川監督のお父さん
で劇作家の陸天明氏に『ココシリ』は評
価するけど、『南京! 南京!』の出来は
イマイチと言いましたが、お父さんもそ
れは認めてて、「ただ、あそこまで描く
だけでも大変なんだよ」と息子をちょっ
とだけかばっていました。
マダム・チャン
2012/03/18 06:49
『ラーベの日記』についての評価、私も大賛成です。ただ、あの映画では、ドイツに戻った後のラーベが描かれていなかったのが残念でした。
Linjing
2012/03/28 14:56
Linjingさん

ドイツに帰ってから同盟国日本に歯向かった
というのでナチスに捕まったんですよね。
でも、そこまで描くのは2時間では難しい。
マダム・チャン
2012/03/29 08:52
日本理应正视历史,作为侵略者,却不敢认罪,可悲之极!
日本&#35748;罪
2012/05/24 11:18
你应该好好读我的博文。你懂日文吗?
マダム・チャン
2012/05/25 19:19

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