マダム・チャンの日記

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help リーダーに追加 RSS 心臓に毛が生えている理由

<<   作成日時 : 2008/05/07 09:31   >>

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GW中に息子と書店に行って、見つけた米原万理さんの新刊本。
まだ単行本になっていないエッセイがあったのね、と喜びながら
手にするも、帯には「最後のエッセイ集」とあり、
これで、いよいよ米原さんの未読の文章を読むのは最後なのかと
思うと残念でならない。
私の本棚には彼女の全著作(翻訳一冊を含めて)が揃っている。
ただの通訳だけでは終わらず、作家となったのも当然というその個性と
知性を敬愛していたのだが、ついに一度も実物にお会いする機会は
なかった。そうと知っていたら、講演にでも行ったのになあ。

さて、ページをめくるのを惜しむように読んだ最後のエッセイ集。
最後とは言っても亡くなる直前までサンデー毎日に連載していたエッセイは、
「発明マニア」という本にまとめられており、
こちらの「心臓に毛が生えている理由」のほうは発病前からの
さまざまな雑誌や新聞に書いたものをまとめたものなので、
自分の老後のことなどが書いてあるのが、今読むと痛ましい。
どの文章も、その博識ぶりと洞察力に感嘆するのだが、
やはり言語に関する三章の「心臓に」が一番光っている。
その中でも特に興味深く読んだのは、日本人を含めた東洋人の口下手と
西欧人の論理性に言及した「脳が羅列モードの理由」。
米原さんはそれは東洋と西洋の試験方法に関係があると考えた。
科挙のような筆記試験の東洋と、口頭試問で鍛えられた西洋人との
違いなのでは、と言うのだ。
それに対し比較文学者の平川先生という方が、
それは西洋では紙が少なかったからだと書かれていたと言う。
西洋では紙は貴重品で第二次世界大戦中ですら、
アメリカ軍の兵士は一日一回四片の割り当てだったと言うし、
(それってトイレ紙のことなのかメモ用紙とか手紙の便箋のことなのか
不明だが)
18世紀に日本に来日した西洋人は日本人が和紙で鼻をかんで
捨てるという贅沢に驚嘆したのだそう。
(だから、西洋人は鼻をハンカチでかむのかあ)
またケンブリッジ大学で筆記試験が始まったのは、
数学は1747年、古典は1821年、法律と歴史に至っては1872年だとか。

そこから米原さんの鋭い洞察が展開される。
通訳をしていると、論理的な発言はどんなに長くても記憶できるが、
非論理的な発言は本当に覚えにくいことからも分かるように、
西洋人の論理性は記憶の負担を軽減するために発達した。
文字依存度が高い日本人に比べて、それが低い西洋人の言語中枢は、
ゆえに論理的にならざるを得ないのだ、と言うのが、米原説。
なるほどねえ。
私もそんなに深くこの問題について考察したわけではないが、
西欧人の中国語スピーカーが中国語が読めないことに驚いたことが
何度かある。(もちろん読める人もいるんだけど)
私なんか漢字ナシではとても単語を長くは覚えていられないのに、
この人たちはどうやって記憶に定着させているのだろうと不思議でならなかった。
もともとが中国人や日本人のような漢字圏の人間は使用するのが
表意文字であるため、文字依存度が高い。
それに対して欧米人はアルファベットそのものが表音文字だから、
完全に聴力依存なのね。
聴力だけで記憶に定着させるには論理思考が必須なわけだ。

だが、待てよ、と思う。
米原さんは中国語を解さないから、日本人だけを基準にして
東洋人は非論理的と言っているけど、
中国人が実はものすごく論理的に喋ることの理由はそれでは
解明されないではないか。
中国人の発言に常々私が感心するのは、まず結論を述べて、
それには理由がいくつあります、「一、二、三…」と列挙することだ。
大学の先生でもないのに論理学でも学んでいるんかいなと思う。
こういう喋り方をする日本人は私も含めてそうはいない。
それから、学校教育でスピーチの教育でもしてるのかと思うぐらい、
どんな人でもスピーチが上手い。
スピーチ定型文があるせいだけど、本当に自信たっぷりに喋る
ので、聞いていてものすごく安心感がある。
日本人は相当な偉い人でスピーチ慣れしてても、上手い人は少ない。
もっとも中国人は定型で喋るのでスピーチが面白いということは
めったにないけどね。
普段のユーモアがスピーチには現れないから。


だいたい、スピーチなんて正式なものじゃなくても、
テレビの街頭インタヴューなんかでそのへんを歩いてる人に
話を聞いても、
日本人と中国人は答え方が全然違う。
中国人は述べる意見が明晰で内容がある。
(正しいかどうか、とか、客観的であるかどうかはともかくとして)
映画の感想を小学生の子どもに聞いたって、
中国人の子どもはそのへんの日本人の大人より、きちんと答える。
それに対して、監督の舞台挨拶に花束贈呈に来る日本の女優さんに、
司会者が映画の感想なんか聞いた日にはほんとに通訳泣かせである。
だって、まったく訳しようがないんだもの。
何とか訳しても空疎な内容のない中国語になってしまい、
通訳がボキャブラリーがないせいじゃないかと疑われてしまう。
実は東大卒の某女優ですらそうだった。
いくら理系でも、それはないんじゃないという感想に呆れかえった。
あ、でも、今にして思えば彼女、その映画を見てなかったという可能性もあるな。
だから、どんな映画でも言えるようなことしか言えなかったのか。
それなら分かるけどね。


追記 お昼を母親と食べながら日中共同記者会見を見る。
    ね、中国人は定型で喋るでしょ?
何も言ってないに等しい、胡錦濤の質問に対する名答ぶり。
    二人の発言を聞いていると福田が正直に見えてくるもの。
    テレ朝の記者は質問が具体的でなかなか宜しい。
    できるだけ具体的に細かく聞いていかないとダメなのよ。
    おおまかに聞こえのいいことしか言わないからね。

    あと、中国の小学生が日本人のそこらの大人より中身がある
    ことを喋っているように聞こえるのは、中国語の単語が抽象語
    が多いせいもある。
    日本人も漢語を多く使って話せば大人の感想にはなる。
    ただ抽象語の欠点はもっともらしいが、空疎に流れやすいこと。
    錦ちゃんの発言を聞きながら、そう思った。

    ところで、錦ちゃんの発音は、「e」が抜け落ちるのね。
    「接触」が「基礎」に、「戦略」が「站立」に聞こえた。










































































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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
 西欧人の留学生に半分怒りを込めて言われましたよ。「どうして日本人は漢字が読めるのに中国語が下手なんだぁ!?」って。私たち日本人は「知らね〜よ」って答えていましたけど(汗)。

 今年度のNHKテレビの中国語講座の先生は日本人で,日本人の私にはやはり日本人の先生(の教え方)が合っているのかなぁと感じました。中国人の先生だと「耳で聴こえたそのままを言ってみて!」というようなやり方で,大人になってからの語学の勉強の方法として,(特に日本人の超初心者にとって)それはちょっと酷な気がしました。漢字を介さないで中国語をマスターできるのなら,もちろんそれがベストなんでしょうけど。

 (中国語学習者としては,テレビを観ていても,総理よりも総理通訳の岡田勝さんに注目してしまいます。声がいいっていうのも,通訳者の素質ですよね。)
今岡
2008/05/07 23:13
いつも楽しみに見ています。米原万里さん私も大好きです。嘘つきアーニャの真っ赤な真実 オリガ・モリソウナの反語法 を読み終えた時のなんともいえない読後感。いつもにこやかでユーモアにあふれていた米原万里さんの人とのつながりかたが強くて温かいのですよね。
ikko
2008/05/08 00:43
今岡さん
私も完全に漢字異存です。聞いたことのない単語を
聞くと必ず「どう書くのか」を確認して初めて安心
します。同音異義語の多い中国語、音だけじゃ、
とても納得がいきません(笑)

通訳の大事な素質のもう一つが図々しさです。
気の小さい人には向かない。失敗もすぐ忘れる
それこそ毛の生えた心臓が必要。
マダム・チャン
2008/05/08 07:52
ikkoさん
ありがとうございます。
米原さんの子ども時代のチェコのソビエト学校の
話は本当にどのエピソードもいいですよね。
強烈な個性の先生と子どもたち。でも、みんな
政治に翻弄されている。なのになのか、だから
逞しい。NHKBSで放映された「心の旅」は人生
で私が見たテレビ番組のほとんどベストワンで
す。初回も再放送も見たのに録画しておかなか
ったのが悔やまれます。
マダム・チャン
2008/05/08 07:56
興味深く、日記を拝見させて頂きました。
中国人は、文章の上でも口頭の上でも、
言葉遊び?が大好きなように思います。
本人たちは言葉遊びとは思っていない?
かも知れませんが、言葉の力を信じ、
それで相手を説得しようとする姿勢は、
西洋人にも通じるものがあるように思います。
日本人は「心」という不確かなもので
通じ合おうとする傾向が強いのかも知れません。
また、インタビューを聞いていて思うのですが、
中国人は結構色々なインタビュアーが
「これは失礼極まりないのでは!」
と思うようなことを聞いている気がします。
今をときめく芸能人だったら、
「将来ファンが離れたときにはどうしますか」
というような、日本ではありえない質問をしたり。
けれどそれに(日本人ほど)気分を悪くするでもなく、
自信たっぷりにそれ以上の答えを返す中国人を見ると、
「これこそが中国●千年の本当の意味かも」
と、思ったりします。卓球の福原愛ちゃんは、
その意味でやはり日本人なのだと安心しましたが。
駄文失礼致しました。
ming ming
2008/05/08 22:26
ming mingさん
そうなんです。日本人の記者さんは
よく言えば礼儀正しい、悪く言えば
突込みが足りない。その点、中国の
記者の質問は聞いてる分には楽しい
ですね。

愛ちゃんはまだ中国語学習期間が短い
ので中国人化していません。私のよう
に中国語歴30年ともなると、かなり中
国人化が進みます。日本人に「大陸的」
と言われるわけです。
マダム・チャン
2008/05/09 07:36
留学していた時、友達がたまたま持ってきていたのが、
「不実な美女か貞淑な醜女か」
旧ソ連からの留学生も多かったため、
「〜ってホント?」と聞くと、「そうそう!」と
結構、盛り上がった記憶があります。
彼女に啓発されて、東欧、旧ソ連、トルコ(魔女の1ダース)に行ってみたり、ロシア語を副専攻で取ってみたり。
でも、残念なことに、政治的な中国についての考察というか、意見が少ないですよね。
当たり障りのない話にとどめておく程度。
アメリカについては、かなり批判をしていますが、
中国についても、深く言及してほしかったです。
多分、現代中国に興味が無いのか、
あまり好きじゃないんだろうなと、
勝手に想像しながら、著作を読み漁っていました。

ところで、中国の人たちの「第一、第二・・・」はイラッとくることもしばしば。しゃべり始めると滔々不絶で、頭がガンガンしてきます。
mudanjiang
2008/05/09 11:28
米原さんは政治的立場の明快な人ですよね。
お父様が共産党の幹部だったし、基本的に共産
主義者だったと思うし。なのに、中国について
の言及が少ないのは、日共と中共との仲が微妙
なので、それも関係しているのかもしれません
ね。

でも、日本ペンクラブの中では、中国ペンの立
場を非常によく理解していたそうですよ。同じ
社会主義国の事情に通じていたからでしょう。

中国人が滔々と喋り出したら、口を封じる手は
一つ。「胡説八道!」と言ってやることです。
そうすると、向こうもニヤリとして黙ります。
マダム・チャン
2008/05/09 11:41
>日共と中共との仲が微妙
なので、それも関係しているのかもしれません
ね。

きっとそうでしょうね。
だからこそ、中国や北朝鮮についての見方を
余計に知りたいと思ってしまった。

ところで「胡説八道!」なんて言って、笑ってくれますか?
今度、恐る恐る試してみます。
mudanjiang
2008/05/09 13:35
あ、もちろん、これを言う際はにこやかに
冗談めかして言う、というテクは必要です。
お試しください。
マダム・チャン
2008/05/09 17:01

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